(1)なぜ、避難指示が出され、「
ハザードマップ」があったにもかかわらず避難が遅れたのか、発災時・発災直後に関しては、既に各種報道や政府の審議会又は検討会等でも指摘されているとおり、避難勧告等が出されていたにもかかわらず、また、「
ハザードマップ」で被害が予測されていたにもかかわらず、住民の避難が遅れ、犠牲者が出たという事実がある。
(2)避難が遅れた要因としては、「
正常性バイアス」や情報過多が指摘されている。西日本豪雨における土砂災害、堤防の決壊、ダムの放水等による水害では、行政による警報の出し方の問題のほかに、住民の避難の遅れに注目が集まった。
(3)被災者に話を聞くと、テレビやネットで警報が出されていることは知ってはいたものの、「
自分が災害にあうとは思っていなかった」、「
隣の人が逃げていないから大丈夫だと思った」、「
怖くて逃げることができなかった」。災害からの被害を少なくするには、「
避難が重要」であるが、実は、それが大変難しい。
(4)人にはなかなか逃げることができない「
心の罠」が存在している。人間は合理的に生きていると思われているが、実際は、明らかな危険に直面しても逃げることは容易ではないのである。
(5)心理学では、自分だけは大丈夫だと思い込むことを「
正常性バイアス」、隣の人が逃げないから自分が大丈夫だと思い込むことを「
同調性バイアス」、想定外のことに頭が真っ白になって反応ができなくなってしまうことを「
凍り付き症候群」と呼ぶことがあるが、いずれも人間の心の傾向の問題であり、大きな災害発生する度に繰り返し指摘されている」。
(6)例えば、倉敷市真備地区では、1976年(昭和51年)にも浸水があったが、その時の浸水が深さ50㎝程度であったこと、その後大きな被害がなかったことが2018年の平成30年7月豪雨においての「
正常性バイアス」をもたらした旨の指摘もある。
(7)「
正常性バイアス」に関して、人間は、しばしば事実や数字よりも直感やストーリーを基に判断することが、行動経済学や人文学でも指摘。直感やストーリーは、「
正常性バイアス」にもなりうる一方で、危機を回避する方向にも作用し得ると考えられる。
(8)アンケート調査結果を基に、避難の有無及び場所の類型別に、判断要因を集計した。これによると、屋外に避難した者は、「周囲の環境が悪化してきたから」「自分のいる場所で浸水又は土砂崩れが起こったから」「周囲の人に促されたから」と回答した割合が40%前後と高くなっており、直感的又はわかりやすい出来事が避難を促進させた可能性がうかがえる。
(9)何もしなかった又は自宅の2階等に避難した者は、「これまで災害を経験したことはなかったから」「大雨や浸水により外に出る方が危険だと思ったから」を挙げる者が比較的多い傾向にあり、「
正常性バイアス」、判断の遅れにより状況が悪化する前に避難できなかった可能性がある。
※【
真備町が水没】平成30年7月、高梁川支流の小田川水系が氾濫し、真備町全域が水没する大災害。 水害による死者52人、特に、末政川と高馬川の間に位置し、浸水深が深い有井地区、箭田地区で死者が多く発生。《5月20日から【避難勧告】が廃止され、『避難指示』となった。》
災害直後に真備地区に災害ボランティアで訪れ、狭隘道路で2階建ての住宅が多いことを目にした。2階建ての1階で亡くなった方は実に9割で、もし『
垂直避難』をしていたら死は回避できたかもしれない。ボランティアに伺った高齢者世帯では、23時以後に急激な増水であっという間に2階まで浸水し、腰まで浸かってから水は引いていたと話された。真備綾南高校とは目と鼻の先の距離。早い時間から高校に避難していれば死は回避できた筈。これも「
正常性バイアス」により、自分だけは助かるとする根拠無き自信によるものか?明日は我が身と自問した。
第1部「特集」進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd124440.html